「お酒を飲まないから大丈夫」は禁物?新しい脂肪肝の基準「MASLD(マッスルディ)」と、沈黙の臓器を守るエコー検査

こんにちは。わたなべ内科クリニックの副院長です。
皆さんは「脂肪肝」と聞くと、どのようなイメージをお持ちになるでしょうか? 「お酒をたくさん飲む人がなる病気でしょ?」「自分はビールも日本酒も飲まないから関係ないよ」と思われている方が非常に多いのですが、実はここに現代医学における大きな落とし穴が潜んでいます。
近年、医療の世界では「お酒を飲まない人の脂肪肝」こそが、将来の肝硬変や肝がん、さらには心臓病や脳卒中といった命に関わる病気に直結する非常に危険な状態であるとして、世界中で大きな警鐘が鳴らされています。
今回は、新しく提唱された脂肪肝の国際的な基準のお話と、当院が力を入れている「沈黙の臓器を守るためのアプローチ」について詳しく解説します。
新しい基準「MASLD(マッスルディ)」をご存知ですか?
これまで、お酒を飲まない(あるいは少量しか飲まない)人の脂肪肝は、専門用語で「NAFLD(ナフルド)」などと呼ばれていました。しかし、2023年に世界的な学会が集まり、実態により即した新しい名前へと変更されました。それが「MASLD(マッスルディ:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」です。
この新しい名前に変わった背景には、「ただ単に肝臓に脂肪が溜まっているだけではない」という強いメッセージが込められています。ずばり、「生活習慣病(代謝の異常)が原因で起きている、リスクの高い脂肪肝」を厳しく見つけ出そうという基準です。
具体的には、お酒をあまり飲まない方で、脂肪肝があり、さらに以下の5つの項目のうちひとつでも当てはまる場合、この「MASLD」と診断されます。
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肥満・過体重(お腹まわりが気になる、内臓脂肪型肥満)
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血糖値が高い(糖尿病、またはその予備軍・空腹時血糖が高い)
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血圧が高い(高血圧、または血圧を下げる薬を飲んでいる)
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中性脂肪が高い(脂質異常症)
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善玉(HDL)コレステロールが低い
「少しお腹が出てきて、健康診断で血圧や血糖値、コレステロールのどれかが引っかかった」という方の脂肪肝は、ただの『食べすぎ・運動不足』で片付けてはいけません。それは、将来的に肝臓や全身の血管がボロボロになっていくサインかもしれないのです。
なぜ恐ろしい?「沈黙の臓器」が引き起こす悲劇
肝臓はよく「沈黙の臓器」と言われます。 これは、肝臓が非常に我慢強い臓器であり、多少のダメージを受けても悲鳴を上げない(症状を出さない)ためです。
肝臓に脂肪が溜まり、やがて慢性的な炎症が起きると、肝臓の細胞が少しずつ破壊されていきます。人間の体は傷ついた部分を修復しようとしますが、これが繰り返されると、肝臓の中に「繊維(かさぶたのようなもの)」が張り巡らされ、徐々に全体が硬くなっていきます。これが「肝硬変」と呼ばれる状態です。さらに進行すると、「肝がん」を発症するリスクが跳ね上がります。
この恐ろしいプロセスにおいて、初期から中期、あるいは肝硬変の手前に至るまで、自覚症状は全くありません。「痛くもないし、お腹も張らないし、だるくもないから大丈夫」と放置していると、ある日突然、取り返しのつかない状態で見つかることになります。だからこそ、「お酒を飲まないから」という理由だけで安心することは絶対にできないのです。
採血が正常でも安心できない?エコー検査の重要性
では、沈黙の臓器である肝臓のSOSを、私たちはどうやってキャッチすればいいのでしょうか? 健康診断の血液検査で「AST」や「ALT」といった肝機能の数値を毎年見ているから大丈夫、と思っていませんか?
実はここにも盲点があります。「血液検査の数値は完全に正常範囲内なのに、エコー(超音波)検査をしてみたら、肝臓が真っ白になるほど脂肪が溜まっていた」というケースは決して珍しくありません。採血だけでは、初期の脂肪肝や、じわじわと進む変化を見落としてしまうことがあるのです。
そこで力を発揮するのが、当院でも行っている「腹部エコー検査」です。 エコー検査には、患者さんにとって多くのメリットがあります。
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痛くない・苦しくない:お腹にゼリーを塗り、機械(プローブ)をあてるだけです。放射線の被ばくもありません。
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その場でリアルタイムにわかる:肝臓にどれくらい脂肪がついているか、肝臓の表面や形に変化が出始めていないかを、その場で画像として医師が確認できます。
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他の臓器も同時にチェックできる:肝臓だけでなく、胆のう(胆石やポリープなど)、膵臓、腎臓、脾臓といったお腹の中の主要な臓器を一度に観察できます。
エコー検査をご希望の方へ:まずは一度「受診・診察」を
当院では、この痛みのないエコー検査を積極的に活用し、地域の皆様の肝臓を守りたいと考えています。
ここで患者様へ大切なお願いがございます。 「エコー検査だけをすぐに受ける」ということは基本的には行っておりません。エコー検査を安全に、そして一人ひとりの患者様のリスクに合わせて正しく行うためには、まずは一度、外来を受診していただき、医師による診察を受けていただく必要がございます。
最初の受診(診察)では、以下のような点を確認させていただきます。
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現在の生活習慣や、これまでの健康診断の結果
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お酒を飲む頻度や量、普段服用されているお薬の確認
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糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の有無
これらを総合的に判断した上で、「どのタイミングで、どのような点に注目してエコー検査を行うべきか」という最適な検査計画を立て、その後エコー検査の予定を組ませていただきます。二度手間に感じられるかもしれませんが、隠れたリスクを見逃さないための大切なステップですので、ご理解いただけますと幸いです。
副院長からのメッセージ:未来の健康のために
MASLDの最大の救いは、「まだ肝臓が柔らかい早期の段階で発見し、適切な食事・運動療法、そして内科的な治療を行えば、元の健康な肝臓へきれいに戻すことができる病気」だということです。手遅れになる前の段階なら、引き返すことができます。
「お酒を飲まないから」と油断している方、あるいは「健康診断で毎年『軽度の脂肪肝』と言われるけれど、症状がないから」と放置してしまっている方。ぜひ一度、当院でご自身の肝臓の未来について考えてみませんか?
特に、すでに当院で高血圧や糖尿病、高コレステロール血症などの治療で通院されている方は、まさに「MASLD」のリスクをお持ちの、肝臓を労わるべき大切な患者様です。
「まずは一度、肝臓の状態を詳しく調べてみたい」と思われたら、いつでもお気軽に、診察時に私(副院長)またはスタッフまでご相談ください。あなたの「沈黙の臓器」を守り、10年後、20年後も健康に過ごせるよう、当院が全力でサポートいたします。