痛みの先に見えたもの――30代の節目に「セルフ大腸カメラ」をやってみた理由

2026.04.06
痛みの先に見えたもの――30代の節目に「セルフ大腸カメラ」をやってみた理由

【はじめに:30代半ば、医師としての節目に】 柳川市の皆さん、こんにちは。わたなべ内科クリニックの副院長です。 早いもので、この柳川の地で診療を始めてから時間が経ちました。今回は、私が約2年前、30代半ばという人生の節目に、自分自身に課した「ある試練」についてお話ししようと思います。

コラムのトップにありました画像。そうそれは、「自分自身で自分に大腸内視鏡検査を行う」いわゆるセルフ内視鏡をしている私の画像になります。

【なぜ「自分で」やる必要があったのか】 医師として1万例近く内視鏡検査を行ってきましたが、常に頭の片隅にあったのは「患者さんは本当に痛くないのだろうか?」という疑問でした。 現在、当院を含め多くの施設で鎮静剤(眠り薬)を使用した楽な検査が行われています。しかし、医療の現場では、アレルギーや体質、あるいは検査後の運転の都合などで、鎮静剤を使わずに「意識がある状態」で検査を受ける患者さんも一定数いらっしゃいます。

「押される感じがしますよ」「ここを過ぎれば楽になりますからね」 私たちは何気なく声をかけますが、その「押し」がどれほど不快で、どの程度の「痛み」として脳に響くのか。それを真に理解するためには、自分の体で試すのが一番だと考えたのです。

【イグノーベル賞への敬意と挑戦】 実は、この「セルフ内視鏡」には偉大な先駆者がいます。2018年、日本の堀内朗先生が「座位で行う自己大腸内視鏡検査」という研究で、人々を笑わせ、考えさせる業績に贈られる「イグノーベル賞」を受賞されました。 堀内先生は、自ら椅子に座った状態でカメラを挿入し、その簡便性と安全性を検証されました。私はそのニュースに深い感銘を受けたと同時に、一人の内視鏡医として「自分もその視点(患者さんの視点)に立たなければならない」という強い使命感を抱いたのです。

【実録:セルフ内視鏡の衝撃】 いざ、前の職場を去る直前の放課後、自分一人でモニターに向き合いました。 まずは下剤の服用。2リットル近い洗浄液を飲む大変さは、言葉で聞くのと自分で飲むのとでは大違いでした。「これは確かに、検査そのものより辛いとおっしゃる方がいるのも頷ける」と、序盤から反省させられました。

そしてカメラの挿入。 利き手でスコープを操作し、もう一方の手でもアングルを操作する。画面に映し出されるのは、紛れもない私自身の腸内です。 進めていく中で、いくつかの発見がありました。 「あ、ここで腸が伸びると、これほど嫌な重だるさが出るのか」 「このカーブを曲がる時の角度が、あと数ミリ違うだけで痛みが劇的に変わる」 自分で操作しているからこそ、痛みが走る「瞬間」と「理由」が手に取るように分かりました。

特に印象的だったのは、空気を入れて腸を膨らませる時の感覚です。お腹がパンパンに張る不快感は、外から見ている以上に精神的な不安を伴うものでした。

【この経験が今の診療にどう活きているか】 この「自分への検査」を経て、私の内視鏡技術と声かけは劇的に変わりました。

  1. 「痛みの予兆」を察知する: カメラが特定の難所に差し掛かる数秒前、患者さんの表情や体の強張りに、より敏感になりました。自分が感じた「あの痛み」が来る直前に、操作をミリ単位で微調整し、空気を抜くタイミングを早めるようになりました。

  2. 言葉の具体性: 「少し響きますよ」ではなく、「今、左の脇腹のあたりが重くなりますが、すぐに抜けますからね」と、自分の体感に基づいた具体的なアドバイスができるようになりました。

  3. 起きて受ける検査への自信: 「鎮静剤なしでは無理」と思い込んでいる患者さんも多いですが、適切な技術と呼吸法があれば、決して拷問のような検査ではありません。私自身が「自分で自分にできる」ことを知っているからこそ、鎮静剤を使わない患者さんにも、過度な不安を与えずにリラックスして受けていただけるよう導く自信がつきました。

【結びに:柳川の皆さんに伝えたいこと】 大腸がんは、早期に発見すれば決して怖い病気ではありません。しかし、「検査が痛そう」「怖い」というイメージが、発見を遅らせてしまうことが一番の悲劇です。

私は、自らの腸で痛みの正体を学びました。 鎮静剤を使って眠っている間に終わる検査も、もちろん素晴らしい選択肢です。一方で、起きた状態で自分の腸を確認したいという方にも、最大限「痛くない、苦しくない」技術を提供したい。しかし腹部手術後の方で非常に痛みが強く、鎮痛剤がないと挿入が困難な方が一定数いらっしゃるのもたしかです。

「副院長も自分でやってみたんだから、大丈夫だろう」 そんな風に、少しでも検査のハードルが下がれば、これほど嬉しいことはありません。 お腹のことで少しでも気になることがあれば、いつでも「セルフ内視鏡経験者」である私に相談をしてください。

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